18世紀のメキシコ、特に当時「新スペイン」と呼ばれていたこの地域は、複雑な人種構造と社会階層を抱えていました。スペイン人植民者、先住民、そしてアフリカ系奴隷が入り混じり、多様な文化とアイデンティティが生み出されていました。この時代における人種と社会階層の関係を明らかにするために、多くの芸術家たちが作品にその複雑さを反映させようと試みました。中でも注目すべきは、アグスティン・デ・イタービア(Augustín de Iturbide)という画家が制作した「Casta Paintings」です。
イタービアは18世紀後半に活動したメキシコ出身の画家で、その作品は当時の人種的・社会的状況を鋭く捉えたものとして知られています。彼の代表作である「Casta Paintings」シリーズは、様々な人種間の組み合わせによって生まれた異なる混血(Castas)の人々を描いたものです。スペイン人、先住民、アフリカ系奴隷の3つの主要な人種集団が、様々な割合で混合し、16種類の異なるCastaを形成しています。
イタービアは、各Castaの絵にその特徴的な外見や服装、そして社会的地位を示すシンボルを盛り込みました。例えば、「Mestizo」(スペイン人と先住民の混血)は、明るい肌色と先住民の特徴を併せ持つ人物として描かれており、農業労働者や職人といった職業に就いている様子が描かれています。一方、「Mulatto」(白人ヨーロッパ人とアフリカ系奴隷の混血)は、濃い肌色で巻き毛を持ち、家政婦や召使といった役割を担っているように描かれています。
イタービアが「Casta Paintings」を描いた目的は、単に人種間の違いを視覚的に表現するにとどまりませんでした。彼は、これらの絵を通して当時の複雑な社会構造を描き出そうとしていました。スペイン人植民地支配下で、人種と社会的地位は密接に結びついており、混血の程度によって個人の権利や機会が大きく左右されていました。
イタービアの絵画は、当時の人々がどのように自分たちのアイデンティティを捉えていたのか、そして社会階層における彼らの位置づけをどのように理解していたのかを知る上で貴重な資料となっています。彼の作品は、人種的多様性と社会的不平等という複雑な問題を提起し、私たちに歴史の教訓を深く考える機会を与えてくれます。
以下に、「Casta Paintings」シリーズで描かれた16種類のCastaとその特徴をまとめた表を示します。
Casta | 人種構成 | 特徴 |
---|---|---|
Español | スペイン人 | 白肌、blondeの髪、華やかな服装 |
Indio | 先住民 | 褐色の肌、黒い髪、伝統的な衣装 |
Negro | アフリカ系奴隷 | 黒い肌、巻き毛、粗末な服装 |
Mestizo | スペイン人 & 先住民 | 明るい肌色、先住民の特徴を併せ持つ |
Mulatto | スペイン人 & アフリカ系奴隷 | 濃い肌色、巻き毛、家政婦や召使 |
Casta | 人種構成 | 特徴 |
---|---|---|
Morisco | スペイン人 & アラブ人 | 褐色の肌、黒い髪と目、イスラム教徒の服装 |
Castizo | スペイン人 & メスティソ | 明るい肌色、スペイン人らしい顔立ち |
| Sambo | 先住民 & アフリカ系奴隷 | 黒い肌、先住民の特徴を併せ持つ | | Chino | 中国人 & スペイン人 | 黄色っぽい肌色、 slanted eyes、伝統的な中国の服装 |
イタービアの「Casta Paintings」は、単なる歴史的資料以上の価値を持ちます。彼の作品は、私たちに人種とアイデンティティ、そして社会構造という普遍的なテーマについて深く考えさせる機会を与えてくれます。
イタービアの時代には、人種による差別が社会構造に深く根付いていましたが、彼の絵画は、その複雑さを明らかにし、私たちに当時の社会状況を理解する上で貴重な洞察を提供してくれます。そして、現代においても、イタービアの作品は、人種や文化的多様性に対する理解を深め、偏見や差別をなくすために重要な役割を果たします.